音楽とアイヌ。
原点を辿ることで行き着いた、
トンコリづくりの道。
Peteトンコリ工房
- 釧路市

道東屈指の美しさを誇る湖、阿寒湖。そのほとりには複数の温泉宿が立ち並び、阿寒湖温泉街として多くの観光客を受け入れています。この温泉街の一角にあるのが、先住民族アイヌと、道内外から集まった人々が作った工芸と芸能の集落〈阿寒湖アイヌコタン〉です。アイヌ民族の生き様が色濃く刻まれたこの地には、先人たちが語り継ぐ想いや文化を受け継ぎ、新たな創造を重ねた「ものづくり」を今も続ける人がいます。 自身の原点を見つめて。未来のアイヌ文化を見据えて。文化を受け継ごうと制作に励む、ものづくり人をご紹介します。
音楽とアイヌ。原点を辿ることで行き着いた、トンコリづくりの道。
釧路のアイヌをルーツに持つ辺泥(ぺて)敏弘さん。自身がアイヌであることは幼い頃から知っていたものの、そのことを特別に意識することのないまま少年時代を過ごしていました。
中学生の頃にギターと出合い、以降、音楽の道へ。音響の専門学校を卒業し、プロのバンドの裏方などさまざまな仕事に携わりながら、自身も音楽活動を続けていました。転機となったのは、30歳を過ぎた頃。10年以上組んでいたバンドが解散し、一旦音楽活動に終止符を打つことに。「今まで持っていたものをすべて手放そう」。自分自身をもう一度見直したとき、おのずと目が向いたのは自身のルーツであるアイヌのことでした。


アイヌ文化交流センターに行ったり、都内にあるアイヌ料理店へ顔を出したりと、少しずつアイヌについて知識を深めていった辺泥さん。樺太アイヌの伝統楽器「トンコリ」の存在を知ったのはこの頃でした。「ギター奏者で弦楽器好き。そんな自身のルーツに独自の弦楽器があると知り、とても興奮しました」。
それから阿寒湖でアイヌ関係の仕事を募集しているという話を知り、阿寒湖にやって来たのは2016年のこと。釧路市の地域おこし協力隊に着任した辺泥さんは、アイヌ関係の事業に携わりながら、本格的にトンコリの演奏について学ぶようになりました。その中で徐々に「自分だけのトンコリを作ってみたい」という思いが芽生えます。それまで木彫の経験はほとんどなかったという辺泥さんですが、トンコリを作ったことがあるという木彫作家の話や、博物館の展示をヒントに、独学で作り上げたといいます。以来、辺泥さんはトンコリの制作にのめり込んでいきました。

「特に重視しているのは、楽器としての鳴りや精度といった機能。自身の音楽経験から得た知識も取り入れながら、研究を重ねています」。伝統を大切にしながら、楽器としても良いものを作りたい。辺泥さんならではの視点で作られるトンコリは演奏家を中心に注目を集め、全国から注文が来るように。2022年6月には〈Peteトンコリ工房〉として独立を果たしました。
現在はトンコリの制作に加えて、演奏活動にも力を入れているという辺泥さん。その根底にある大事な思いの一つが、「アイヌの認知を広めたい」ということ。自分だからこそできる活動として、音楽を絡めながら自分なりの「楽しい」時間を作っていきたいと話します。

「興味を抱くきっかけって、『楽しい』という気持ちから入ることが多いと思うんです。浅く楽しいままでも良いし、そのうちの一人でも、もう少し詳しく知りたいと思ってくれたらうれしい」。楽しい時間を共にした人々の心に、アイヌ文化に興味を抱く「何か」を残せたら。少しずつ、でも確実に。今日も辺泥さんの小さな「きっかけづくり」は続いています。
Peteトンコリ工房
メールアドレス | tonkori.pete@gmail.com |
@pete_tonkori_koubou |
Peteトンコリ工房
執筆スタッフ

- 武田愛花
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北見市出身。趣味は美術館巡りと映画鑑賞。お気に入りの美術館は、札幌の三岸好太郎美術館。最近のマイブームはビーズ刺繍。可愛い糸やビーズがあるとつい買ってしまいます。