目指すは太平洋。
カヌーで下る釧路川の冒険。
釧路川
- 釧路市
日本最大の湿地帯である釧路湿原を通る釧路川。環境の変化に富んでおり、ダムに遮られることなく下ることができる緩やかな川であることから、カヌー好きの人にとって聖地とも呼ばれる川です。釧路川の始まりから終わるまでをカヌーで下る。それは釧路川を愛する人たちにとって、一度は経験したい憧れのアクティビティ。屈斜路湖近辺のツアーガイドと写真撮影を生業とする國分知貴さんが、友人とともに下ったという、釧路川の冒険の思い出を語ってくれました。
1日目、下見と準備の日。
カヌーのスタート地点まで車で帰ってこられるよう、まずはゴールの釧路港に車を置きに行きます。その間、川沿いに車を走らせて、川の様子を確認。事前に川の状況を目視で確認した上で、適切な装備の用意や、航行区間を改めてチェックしていきます。カヌーを楽しい思い出にするためにも、十分な危機管理が大切になります。
2日目、スタートと源流の日。
屈斜路湖の眺湖橋(ちょうこはし)(※)がスタート地点。2時間ほど下ると突如として川沿いに〈レストランCOVO(コ―ヴォ)〉が見えてきました。都会にあってもおかしくない、本格イタリアンの店にカヌーで横づけ。昼はこちらでスモークサーモンのクリームパスタとピザを優雅にいただきました。夕方、摩周大橋下のカヌーポートまで漕いだら、2日目の行程は終了です。日が明るいうちに弟子屈町内の温泉まで歩き、風呂を浴びた後は居酒屋で地元の人と晩酌。國分さん流の川下りの楽しみ方のひとつです。
※2024年現在、眺湖橋にある発着可能場所は「使用禁止」となっています。駐車を伴うスタート可能場所は「屈斜路ウォータースポーツ交流公園」からになります。 詳しくは「釧路川保全と利用のカヌーガイドラインについて」(https://www.hkd.mlit.go.jp/ks/tisui/qgmend0000000q45.html)をご確認ください。
3日目、中流の日。
弟子屈町の市街地付近には鐺別(とうべつ)川との合流地点があり、そこを過ぎると流れはやや早くなります。体力的なきつさは「旅のハイライトかも」と國分さん。その後も、流れの速い箇所が続きスリリング。波立つ瀬を無事に抜けた後は緊張がほどけます。この日は標茶町の市街地まで30km漕ぎ終了。夜は再び温泉と居酒屋の黄金ルートを楽しみました。
4日目、湿原の日。
急流ゾーンを抜け、この日から釧路湿原へ入ります。湿原へ近づくごとに、カヌーから見える植生も少しずつ変わっていきました。ミズナラなどの広葉樹は消え、ヤチハンノキなどの低木とヨシ・スゲ群落の湿原らしい景色が広がります。時には水を飲みに来たエゾシカや、タンチョウなどの野生の動物たちとも遭遇。釧路川の後半は緩やかな流れになり、身を任せる気ままな川下りになります。その日の夜は、日本遺産にも登録されている「旧岩保木(いわぼっき)水門」がある場所で静かにキャンプをすることに。湿原の雄大な自然を思い出しながら、ゆっくりと夜を過ごしました。
5日目、釧路市街とゴールの日。
ここから先は昭和5年(1930年)に水系分離させるため造られた新釧路川を進むことに。いくつか橋をくぐるごとに、少しずつ町の中心部へ近づいていきました。川岸はコンクリートになり、見られる鳥はカモメなどの海鳥へ。釧路大橋の上には、通勤の車や自転車など、平日の朝の風景がありました。いよいよ西港(にしこう)大橋を越えて、ゴールの太平洋へ到着。川から海へ、1本に繋がった瞬間でした。
川上から川下まで、市街地と大自然を繰り返し眺めたこの数日間。人も動物も同じ地平で暮らしていることが実感できた川旅でした。「カヌーは自然と人の共生について、ごく自然に教えてくれるきっかけになります。そんな場所として川下りや川での自然遊びがもっと広がってほしい」と國分さんは話してくれました。
釧路川周辺には、初心者でもガイド付きで体験できるカヌースポットが数多くあります。一本の川が教えてくれる自然と人との営みを、ぜひ感じてみてはいかがでしょう。
釧路川
執筆スタッフ
- 武田愛花
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北見市出身。趣味は美術館巡りと映画鑑賞。お気に入りの美術館は、札幌の三岸好太郎美術館。最近のマイブームはビーズ刺繍。可愛い糸やビーズがあるとつい買ってしまいます。