夜風を感じながら、
街を馬車で駆ける。
馬車BAR
- 帯広市
多くの車や人が行き交う夜の中心街で、馬車を走らせる。耳を疑うようなチャレンジは、あれよあれよという間に、見事に実現しました。今では全国各地からやって来たお客さんを乗せ、リピータも多数。注目を集めている馬車BARに、ついに乗車することができました。
なぜ帯広の中心街で馬車を走らせるのか。
昭和30年代、たくさんの馬が帯広の街を駆けていました。自動車が普及しておらず、馬が欠かせなかったのです。人間を運ぶ以外にも、畑を耕したり、伐り倒した木や荷物を運んだり。馬は開拓の苦楽を共にした仲間でした。
60年以上が経過した今、十勝の馬は約2,000頭まで減りました。道内で唯一ばんえい競馬が残っているとはいえ、日常生活で馬が活躍する機会はありません。十勝の開拓を支えた馬文化をつなぎ伝えたい。そんな思いから2019年、馬車BARの運行が開始されました。
馬車から見る帯広は、新しい。
初めて馬車BARに乗ったのは、11月下旬のこと。プログラムが始まる18時頃には、外の気温は1ケタ台。北海道民でもそろそろ冬のコートを着なければちょっと寒いくらいです。
定員18名の大きな馬車を曳くのは、少し前まで帯広競馬場でばん馬としてレースを走っていたムサシコマ、通称コマちゃん。9歳の男の子です。人を乗せても動じず、車を怖がらないことを条件に、たくさんの馬の中から選ばれたそう。確かに鳴いたり、大きく動いたり、人が不安になるようなことは一切ありません。
馬車が走るコースはそれほど長くはないのですが、よく知っている駅前通りでも、馬車に乗って見るだけで全く違う景色となるのです。おすすめは2F。手を伸ばせば信号に届くのではないかというほどの高さとなります。そんな位置から見下ろす北の屋台、五番館といった帯広の夜の街は、美しいものでした。
コマちゃんは50分の間ずっと歩いているのではなく、途中、休憩を挟みます。思い出すのは、ばん馬のレース。休憩しながら、最大限の力を発揮する馬たちと同様に、少し休むことで、後半も頑張ってくれるのです。休憩中、ニンジンをあげることができるのですが、これが楽しい。ニンジン色のよだれを垂らしながら待つコマちゃん。このときだけ「もう1本」と、控えめに前足を鳴らすのが印象的でした。
馬車が動いている最中には、プロジェクトの仕掛け人の永田さんが馬の豆知識を披露してくれます。地元民の私でも知らないような話が次々と飛び出しました。どんな話を聞けるかは、乗ってからのお楽しみ。
そうこうしているうちに50分があっという間に過ぎて、「もうちょっと乗っていたかったな」と思う頃にゴール。今回初めて乗ってみて、観光客も地元の人も境なく、一度は体験したほうが良いと確信しました。「パカッパカ」という音を聞きながら目を瞑ると、昭和の時代に思いを馳せられるのでした。
馬車BAR
- 住所
- 帯広市西2条南10丁目20-3
- 電話番号
- 0155-20-2600(ホテルヌプカ)
- 料金
- 3,300円(1ドリンク・おつまみ付き)
執筆スタッフ
- 猿渡亜美
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帯広市の隣、芽室町出身。日高山脈・剣山のふもとで育ちました。学生時代は歴史学を専攻。特に明治、大正、昭和の時代を好み、古い建物や道具、当時の暮らしなどに関心があります。